
アブラハム合意を超えた新同盟の誕生 米・イスラエル・UAE・サウジの四か国が対イラン戦争で事実上の共同作戦 中東新秩序の地殻変動
2026年5月12日、ロイター通信が複数の関係筋の証言に基づき、サウジアラビアが対イラン戦争において米国・イスラエルと並んでイランへの秘密攻撃を実施していたと報じました。UAEの秘密攻撃参加が明らかになったわずか1日後のこの報道は、対イラン戦争が米国・イスラエルの二か国による作戦であるという従来の認識を根底から覆すものです。2月28日の開戦以来1,000発以上のドローン・ミサイル攻撃を受け続けてきたサウジアラビアが、ムハンマド・ビン・サルマン(MBS)皇太子の決断のもとで「影の戦争」に踏み切っていた実態が、今まさに明らかになっています。

複数の匿名関係者の証言をもとに報じた内容によると、サウジアラビア軍は対イラン戦争の過程でイランの軍事・エネルギーインフラに対して複数回の攻撃を秘密裏に実施しました。サウジアラビアが保有するF-15SAストライクイーグル(米国製精密攻撃戦闘機)を主力としたこの作戦は、米国とイスラエルの作戦と連携して実施されたとみられており、サウジアラビア政府は現時点でこの報道について公式なコメントを出していません。
サウジの攻撃が実施されたのは3月から4月にかけての複数の時点とされており、その標的はイランの革命防衛隊(IRGC)関連施設および石油・エネルギーインフラだったと伝えられています。サウジアラビアの外相プリンス・ファイサル・ビン・ファルハン氏は3月18日の記者会見で「テヘランへのいかなる信頼も取り返しのつかないほど損なわれた」と述べており、「必要であれば軍事行動を取る権利を維持する」と明言していましたが、その「権利」がすでに行使されていたことを今回の報道は示しています。

サウジアラビアが秘密攻撃に踏み切った背景には、開戦以来受け続けてきたイランの壊滅的な攻撃があります。報道によると、2月28日の開戦以降、イランはサウジアラビアに対して1,000発近くのドローン・ミサイル攻撃を実施しました。リヤド近郊の居住区、プリンス・スルタン空軍基地、石油施設、紅海沿岸の港湾インフラなどが繰り返し標的にされ、サウジの防空システムは連日フル稼働を強いられました。
3月18日にはイランがリヤドに向けて弾道ミサイルを発射し、サウジ市民が初めてスマートフォンへの緊急警報を受け取る事態となりました。同日、イランはカタールのエネルギー拠点を攻撃し、サウジの石油施設に対しても退避警告を発出しました。この日を境にサウジアラビア政府の姿勢は一変。外相が「忍耐の限界に達している」と公式に表明し、水面下ではMBS皇太子の決断のもとで報復攻撃の準備が進んでいたとみられます。

サウジアラビアが攻撃参加を公表せず「秘密の戦争」を選択した背景には、複雑な地政学的計算があります。第一に、サウジはペルシャ湾岸から紅海にかけての広大な石油インフラを抱えており、公式に対イラン交戦国と認定されれば、より組織的・大規模な報復攻撃の標的となる危険性が高まります。第二に、サウジ国内には数百万人のシーア派系市民が居住しており、イランとの公式な戦争状態が国内の宗派的緊張を高めるリスクがあります。
第三の理由として、トランプ政権が進めてきた米・サウジ間の安全保障・経済協定の交渉への影響があります。サウジは米国との間で大規模な武器売却・原子力平和利用協定・安全保障条約の締結交渉を進めており、公式に「戦争当事国」となることはこれらの交渉を複雑にする可能性がありました。「影の戦争」という形式を選ぶことで、サウジは実質的な報復を実現しながらも、外交的な立場の柔軟性を保つという一石二鳥の戦略を取ったとみられています。

5月11日のUAEの秘密攻撃参加の報道から24時間も経たないうちに、今度はサウジアラビアの参戦が明らかになりました。この連続した報道は偶然ではなく、対イラン戦争の実態が「米・イスラエル二か国の作戦」ではなく「米・イスラエル・UAE・サウジによる四か国共同作戦」であったことを示す歴史的暴露の流れとなっています。
「これはトランプ大統領が長年夢見てきた中東新秩序の完成形だ。アブラハム合意でイスラエルとUAEが国交を正常化し、UAEがイスラエルとともにイランを空爆し、そして今度はサウジもその列に加わった。これはアラブ世界とイスラエルが共通の敵であるイランに対して肩を並べて戦った史上初の事例だ」と評しています。トランプ大統領が2020年のアブラハム合意で種を蒔いた「中東新秩序」が、今次の対イラン戦争で実戦的な軍事同盟として結実したことは、21世紀の中東外交史における最大の転換点の一つです。

サウジアラビアとイランの関係は、スンニ派とシーア派の宗派対立を背景とした「中東の宿命的な対立」として、数十年にわたって語られてきました。イランは長年、イエメンのフーシー派・イラクの親イラン民兵・レバノンのヒズボラを通じてサウジを間接的に攻撃し続けてきた歴史があります。今回の「秘密の反撃」は、サウジがその「間接攻撃」に対して直接反撃という形で歴史的な一線を越えたことを意味します。
この変化は中東の安全保障秩序を根本から塗り替えるものです。「イランは後ろから攻撃し、アラブ諸国は防衛するだけ」という旧来の構図が終わり、アラブ諸国が能動的かつ直接的にイランに対して軍事力を行使する新時代が始まりました。イランの核開発への抑止、フーシー派の弱体化、革命防衛隊の打撃、これらの目標に向けて米・イスラエル・UAE・サウジが実質的に連携した今次の戦争は、中東における「イランの脅威の時代」に終止符を打つ歴史的な分岐点として記録されることになるでしょう。
イランはサウジアラビアの参戦報道に対し、「裏切り者のアラブ(Traitor Arabs)」という激しい言葉で反発しました。イランの革命防衛隊幹部は「サウジアラビアはイスラム世界の一員でありながら、シオニスト政権(イスラエル)と十字軍(米国)に加担してムスリムの血を流させている。この裏切りの代償は必ず払わせる」という声明を発しました。
しかしこの「裏切り者」という言葉には深い皮肉があります。そもそもイランは開戦以来、表向きは「敵」と宣言していないサウジアラビアの石油施設・首都・軍事基地に1,000発以上のドローン・ミサイルを撃ち込んできました。「裏切り」と怒鳴る前に、なぜサウジが報復に踏み切ったかを問うべきでしょう。イランが「中立」を装って攻撃し続け、サウジが「中立」を装って反撃する。この「双方の秘密の戦争」という構図は、今次の中東戦争の複雑な多面性を象徴しています。

サウジアラビアがイランを秘密裏に攻撃していたという報道は、UAEの参戦暴露から24時間後に続いた「衝撃の連弾」でした。これにより今次の対イラン戦争は、「米・イスラエルの二か国作戦」から「米・イスラエル・UAE・サウジの四か国共同作戦」という全く異なる性格を持っていたことが明らかになりました。
トランプ大統領が2020年のアブラハム合意で「中東の歴史を変えた」と胸を張った時、世界の多くはその言葉を外交的美辞麗句として受け止めました。しかし今、アラブ諸国とイスラエルが共通の敵に対して肩を並べて戦ったという現実は、アブラハム合意が単なる外交的紙切れではなく、中東の安全保障秩序を塗り替えた「歴史的な血盟」であったことを証明しています。「強さによる平和(Peace through Strength)」というトランプ外交の哲学は、砂漠の上で今まさに実戦の洗礼を受けながら、その正しさを証明し続けています。






