
トランプ大統領が就任以来わずか2か月の間に、中国にとって重要な2人の同盟国リーダーを事実上排除した。ベネズエラのマドゥロ大統領はカラカスから特殊部隊に拘束されてニューヨークの拘置施設に、イランのハメネイ師はテヘランの中心部で米国とイスラエルの共同作戦により命を落とした。北京は怒りの声明こそ出したものの、実質的な行動はほとんど取っていない——その「沈黙」の背景に何があるのか、整理してみたいと思います。
2026年初頭、国際社会を驚かせる出来事が立て続けに起きました 。
まず、ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領が米軍特殊部隊による深夜の急襲作戦でカラカスから拉致され、現在はニューヨークの拘置施設で手錠をかけられた状態にあります 。そしてその数週間後、イランの最高指導者アリー・ハメネイ師が、テヘール中心部への米国とイスラエルの共同爆撃作戦で死亡しました 。

いずれも、中国にとっては長年の「友好国」のトップです。習近平政権はこの2件に対して、国連での声明や外交的な遺憾表明こそ行いましたが、それ以上の具体的な対抗措置を取ることはありませんでした 。
なぜ中国はもっと強く反応しないのか。ここが最大のポイントですよね。
ワシントンのシンクタンク「民主主義防衛財団」の中国担当シニアディレクター、クレイグ・シングルトン氏はこう言い切っています——「中国は晴れた日だけの友人だ。言葉は多く、リスクを取らない」。
国際危機グループのウィリアム・ヤン上級アナリストも「中国はイランをめぐって米国との緊張を高めることに何のメリットも見出していない」と分析しています 。実際、中国にとってイランの戦略的価値は一般に思われているよりずっと限定的で、石油の最大購入国ではあるものの、軍事協力は制限的で、貿易・投資の規模はペルシャ湾岸諸国のほうがはるかに大きいんですよね 。

習近平の視野には今月後半に予定されているトランプとの北京首脳会談があります 。その「大きな絵」の中では、イランやベネズエラはどうしても優先順位が下がる——これが北京の冷徹なリアルポリティクスだと思います。
今回の2件が国際社会に投げかけているのは、「北京を安全保障のパートナーとして当てにできるのか」という根本的な問いです。
ジョンズ・ホプキンス大学の上級研究員ハル・ブランズ氏は「中国と協力したい、あるいは協力を望む国々は、特にイランやベネズエラのように中国から遠く離れた地域であれば、北京が自分たちを見捨てるかもしれないと正当に問い直すべきだ」と述べています 。

アサド政権がシリアで崩壊した際も、北京の反応は極めて抑制的でした 。中国外務省は「中国とシリアの友好関係はシリア国民全体のためのものだ」と述べるにとどまり 、実質的に新政権への「乗り換え」を示唆する姿勢を見せました。中国はシリア内戦をめぐる国連安保理決議でアサド政権を守るために拒否権を計8回行使してきた経緯があるにもかかわらず 、です。
一方で、北京にとってこの状況が全くの損失かというと、そうでもないんですよね。
北京大学匯豊ビジネススクール・中東研究所所長の朱兆頤氏は「米国が中東での軍事的関与を深めれば深めるほど、インド太平洋で中国に圧力をかける余力が失われる」と論じています 。これは中国当局者や専門家の間で広く共有されている見方で、トランプ政権が中東にリソースを引き込んでくれることは、台湾問題をにらんだ中国にとって「棚ぼた」的な側面があるわけです。

さらに習近平は、米国の軍事介入という事実を「対グローバルサウス外交」のカードとして活用しようとしています 。「米国こそが覇権主義的な行動をとる国だ。中国は内政不干渉の原則を守る」というメッセージを新興国・途上国に向けて強調する——これは今後の中国外交のコアな戦略になっていくでしょうね。
トランプ政権は中国との関係を、イデオロギー的な敵対から「経済・戦略上の競争相手」として位置づけ直す方向に動いています 。
昨秋、中国が希土類(レアアース)供給停止という切り札を使って米国に揺さぶりをかけた際も、両国は貿易摩擦緩和の合意に達しました 。2025年10月にはAPEC首脳会議の場でトランプと習近平が会談し 、今月末には北京での首脳会談も予定されています。

表面上は対立しながらも、水面下では実利的な協調がしているように進む—私が「奇妙な安定」と感じるのはこの構図です。トランプ大統領は中国の同盟国を次々と排除しながら、同時に習近平国家主席とのディールを模索している。これは一見矛盾しているようで、実はトランプディール(外交)の本質を体現しているとも言える。相手は有利に進んでいる(余裕や選択がある)ようで、実は見えない大きな壁(外圧)が迫っている。とでもいうのでしょうか。
中国が「晴れた日だけの友人」に過ぎないという評価が現実として突きつけられた今回の出来事は、北京の外交戦略の本質を改めて浮き彫りにしました 。習近平にとって最重要課題はあくまで自国の安定と台頭であり、ベネズエラやイランはその手段(中国を有利にするための駒)に過ぎない—そう割り切れる冷徹さが、中国外交の強みであり、またある種の「信頼性の欠如」でもある、と思っています。
トランプ政権が中東で大胆なカードを切り続ける中、北京は沈黙を守りながら着々と次の一手を計算している。この構図をしっかり注視していくことが、日本にとっても重要な視点ではないでしょうか。






