
米・イスラエルの合同空爆によって暗殺されたイランの最高指導者アリー・ハメネイ師の後継として、長男のモジュタバ・ハメネイ氏(56歳)が専門家会議によって選出されたと、イラン反体制系メディアが報じました。ただし現時点でイラン政府の公式確認はなく、選出プロセスは革命防衛隊(IRGC)の圧力下で憲法上の正規手続きを迂回した可能性も指摘されています。混乱の中で「世襲」が進む——イスラム共和国は今、体制存続を賭けた正念場に立っています。
米・イスラエルの合同空爆によって暗殺されたイランの最高指導者アリー・ハメネイ師の後継として、長男のモジュタバ・ハメネイ氏(56歳)が専門家会議によって選出されたと、イラン反体制系メディアが報じました。ただし現時点でイラン政府の公式確認はなく、選出プロセスは革命防衛隊(IRGC)の圧力下で憲法上の正規手続きを迂回した可能性も指摘されています。混乱の中で「世襲」が進む——イスラム共和国は今、体制存続を賭けた正念場に立っています。
まず、この一連の出来事の始まりを整理しておきます。
2026年2月末、米・イスラエルによるイランへの大規模空爆が行われ、イランの最高指導者アリー・ハメネイ師が死亡しました 。ハメネイ師は1989年以来、約37年にわたってイランの「最高権力者」として君臨してきた人物です 。その死は、イスラム共和国体制の根幹を揺るがす歴史的な出来事と言っていいでしょう。

イランの憲法によれば、最高指導者が死亡または職務遂行不能となった場合、88名の高位シーア派法学者で構成される「専門家会議(Assembly of Experts)」が後継者を選出します 。これが憲法上のルールです。1979年の建国以来、この手続きが発動されるのは今回が初めてではなく、1989年にもホメイニー師の死去に伴いハメネイ師自身がこの手続きで選出されています 。
ところが今回は、その「正規手続き」が通常通りに機能しているかどうかが疑わしい状況です。
イラン反体制系メディア「イラン・インターナショナル」が3月3日に報じたところによると、専門家会議はモジュタバ・ハメネイ氏を次期最高指導者に選出したとされています 。
ただし、その選出プロセスには重大な疑問点があります。
イラン・インターナショナルの情報源によれば、空爆が続く中で専門家会議の正式な会合を開くこと自体が難しい状況にあり、IRGCが「夜明けまでに決定を下せ」という強い圧力をかけたとされています 。つまり、憲法が定める手続きの外側で、軍事組織が後継者指名を事実上「強行」した可能性があるということです。
さらに、専門家会議がそもそも機能しているかという問題があります。3月3日にはイスラエル空軍が、後継者選出の投票が行われていた最中に、集まっていた高位聖職者たちの会合を爆撃したという報道も出ています 。混乱の極みですね。
イスラエルメディアもこの選出報道を注目して伝えましたが、イラン政府の公式発表は現時点では確認されていません 。
では、モジュタバ・ハメネイという人物は一体どういう人物なのか、少し見ておきましょう。
モジュタバ氏は1966年生まれ、現在56歳で、ハメネイ師の次男です (一部報道では「長男」「最年長の息子」と表現が揺れていますが、ハメネイ師の子どもの中で公的な活動が最も目立つ存在とされています)。
長年、父の影に隠れながらも、実際にはイランの安全保障・軍事作戦の調整や指揮において重要な役割を担ってきたと見られています 。テヘランを拠点とするアナリスト、メフディ・ラフマティ氏はこう評しています。「モジュタバは今この瞬間、最も賢い選択だ。彼はすでに安全保障・軍事作戦の管理と調整を担っている」。
ただ、その選出は全員一致の歓迎ではないことも同氏は認めており、「国民の一部は否定的・声高に反応し、反発につながる可能性がある」と指摘しています 。
イスラム共和国の建国以来、「世襲」は制度上禁じられているわけではないものの、宗教的な権威の正当性(ウィラーヤト・ファキーフ)という観点からは、血縁による継承はイデオロギー的に説明が難しい面があります。「革命の精神を血縁で引き継ぐ」というのは、イラン国内にある批判勢力だけでなく、体制内の保守強硬派の一部からも懸念の声が出る可能性があります。
正式な後継者が確定するまでの間、イランの憲法第111条に基づき「暫定指導評議会(Interim Leadership Council)」が設置されています。
構成メンバーは以下の4名です:
注目は、比較的「穏健派」とされるペゼシュキアン大統領がこの評議会に入っていることです。しかし実質的な権力は軍・情報・司法を牛耳るIRGC系強硬派が握っており、暫定評議会が「形式」で、実権はIRGCにある——というのが現実に近い見方でしょう。
この件を考える上で欠かせないのが、イスラム革命防衛隊(IRGC)の存在です。
今回の後継者選出において、IRGCが憲法上の手続きを飛び越えてモジュタバ氏の選出を「押し込んだ」とされる構図は、イランの権力構造の本質をよく表しています 。IRGCはイランの正規軍とは別に存在する「革命の守護者」として、最高指導者直属の機関です。核開発、対外テロ支援、経済利権まで膨大な権益を持ちます。
アジア・タイムズは、IRGCにとって「安全な選択肢」を求める文脈でモジュタバ氏が浮上していると分析しています 。モジュタバ氏はIRGCとの関係が深く、体制の「強硬路線」を継続する人物として評価されているようです。これは、米国やイスラエルにとっては「交渉可能な穏健路線への転換」という期待が裏切られることを意味します。
トランプ政権は昨年来、対イラン強硬路線を鮮明にしてきました。その結果としてハメネイ師の排除に成功した形ですが、後継がハメネイ師長男のモジュタバ氏、つまり「ハメネイ師と同じ体制の継続」となれば、問題の根本は変わりません。むしろ、IRGCの影響力が強まった「ハメネイ2.0体制」が誕生する可能性が高い。
核交渉の行方、代理勢力(ヒズボラ・フーシ派など)への影響力、そして中東地域全体の安定、これらすべてが、モジュタバ氏が実際にどういう路線をとるかにかかっています。現時点では「選出報道」が出た段階であり、まだ流動的な部分も多い。今後の正式発表と、その後の動向を注意深く見ていく必要がありますね。






